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fkino diary


2007年12月22日 [長年日記]

_ 『アジャイルプラクティス』の思い出

あるのは、やり方ではなく、あり方だ。
                                     ーー老子

アジャイルプラクティス 達人プログラマに学ぶ現場開発者の習慣(Venkat Subramaniam/Andy Hunt/木下 史彦/角谷 信太郎)

福井出張の電車の中で読みました。一読者として読もうと思ったのですが、監訳中のやりとり (ここを訳すとき角谷さんとこういう話をしたなとか、レビューワの方からこういう指摘をもらったなとか、とか) ばかりが思い出されて、一読者として読むというのはなかなか難しいもんですね。

客観的に読書感想文を書こうと思ったのですが、書けそうにないので思いついたことを書きます。

思い出話

この本の監訳の話を角谷さんからもらったのが確か今年の3月、開発の現場 Vol.008(木下 史彦/SE編集部)の記事を脱稿したかしないかくらいの時期でした。

そういえば、そのときは原書『Practices Of An Agile Developer: Working In The Real World (Pragmatic Programmers)(Venkat Subramaniam/Andy Hunt)』を持っていなかったのでコウイチさんに借りたんだった。コウイチさん、ありがとうございました。

その後、すぐに原書を買いました。読み進んでいくうちにこれはエラいことになったなぁと思いましたよ。なぜなら、内容が素晴らしすぎるのです。(表紙は除くwww)

原書の感想はこんな感じでした。

私もGW明けに『Practices〜』を読了しました。
アジャイル開発に対する心構えやマインド的なものが
非常によくまとまっていると思いました。
総集編みたいな感じですね。

この本の邦訳が出れば、もう自分がアジャイルについて言うべきことはなくなると思いましたよ。(大げさではなく)

実際に監訳作業を始めたのはオブジェクト倶楽部の夏イベントが終わったくらいでした。ちなみにオブラブのイベントでの私の講演『Practices of an Agile Team』は原書のタイトルからいただいたものです。 (というのをすっかり忘れていたんですが、このあいだメールでFujiwoさんに言われて思い出しました。)

11月にレビューが始まって最後の1ヶ月間はすごい経験をさせてもらいました。レビューワ、編集者、監訳者の間のやりとりは主にメーリングリストで行われましたので、コミュニケーションのパイプは決して太くないのですが、お互いへのリスペクト感謝がありました。まさにアジャイルな監訳でした。 (詳細はオブジェクト倶楽部クリスマスイベントの高尾さんのすばらしすぎるLT参照。)

レビューワのみなさん、編集者のみなさん、一緒に監訳をした角谷さんには貴重な経験をさせてもらいました。ありがとうございました。(本を監訳したという経験以上に、アジャイルな経験をさせてもらったという意味で)

アジャイルであること

この本のタイトルにもなっている「アジャイル」とは、そもそも何のことでしょうか?「agile」という単語を辞書で引いてみます。

http://eow.alc.co.jp/agile/UTF-8/?ref=gg

agile
【形】 敏しょうな、素早い、機敏{きびん}な、・・・・・・・・

とあります。

アジャイル開発とは素早い開発のことを指すのでしょうか?いいえ、違います。「アジャイル」という単語の意味からよく誤解を受けるのですが、「アジャイル」というのは速さのことではありません。この本では冒頭にアジャイル開発についての定義がなされています。それによると、

アジャイル開発とは、協調性を重んじる環境で、
フィードバックに基づいた調整を行い続けることである

とあります。つまり、協調性適応性持続可能性といったものを重視する開発をアジャイル開発と呼んでいるのです。

もう一つ、「アジャイル (agile)」という単語が形容詞であることもポイントなのですが、それはこの本の「監訳者あとがき」を読んでくださいwww

ではどのようにすれば協調性や適応性、持続可能性といったものを発揮できるのでしょうか?それはこの本に掲載されているプラクティスを実践することです。この本でいうプラクティスは、「朝会」や「ふりかえり」などのアクティビティ自体のことではありません。この本にでてくるプラクティスはどちからというと心構えや習慣に近いものです。このブログエントリの冒頭に老子の言葉を引用しましたが、まさにこの本で語られているのは、アジャイル開発者の「あり方」なのです。

こういう話をすると、「うちの組織では難しい」など、できない理由をよく聞きます。この本の原書のタイトルは『Practices of an Agile Developer』であることを思い出してください。アジャイル開発者は単数形なのです。カバー装丁を外して表紙を見てください。そこにはひとりの開発者の姿があるでしょう。その開発者のように、この本で紹介されているプラクティスをまず自分からはじめてみてください。

Working in the Real World

原書のタイトルの話をしましたが、原書のサブタイトルの方は『Working in the Real World』です。

私はどうしてもタイトルに「現場」という言葉を入れたかったので、

"現場"というキーワードを入れてみたいと思っています。

とお願いして、原書のサブタイトルの「Real World」に対応する形で「現場」という言葉を訳書のサブタイトルにも入れてもらいました。

この本は、日々現場で葛藤している開発者のための本です。そして、監訳者である私もそのひとりです。

また、現場にいるのは開発者だけではありません。現場にはユーザがいます。

私はこの本を今まで「アジャイル」という言葉を知らなかったような方にも自信を持って勧めています。そもそも、エンドユーザは「アジャイル」なんて知らないでしょう。そういう人にも届く言葉で「アジャイル」について語られているという意味においても、この本は意義深いのです。

さあ、もうこれで「アジャイル」について私が言うべきことはなくなったんだけど、これからどうしようwww

Tags: Agile