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fkino diary


2008年04月13日 [長年日記]

_ 受託開発の極意

献本いただきました。ありがとうございました。

書評とかレビューとか、そういったものを書こうと思っていたのですが、1週間ほど悩んだ挙げ句、岡島さんはあまりにも身近な存在なので、ちょっとそれは難しいなと思いました。それで、その代わりと言っては何ですが、この本を通して私から見た岡島さんについて書いてみたいと思います。

「中庸」であること

大変光栄なことに、この本にはレビュワーとして参加させていただくことができました。ちょうどレビューの締め切りが『』の監訳の締め切りとも重なって大変な時期だったのですが、なんとか最後までレビューさせていただくことができました。

レビューのために何度か岡島さんとメールでやり取りしたのですが、最後にこんな言葉をいただきました。

今回の執筆は、自分の中身を見つめなおすというか、ほじくり返す作業であり、
なかなか辛いものがありましたよ。
自分はどういう哲学で開発をしているのか、仕事をしているのか、誰に何に影響
を受けているのかを見つめなおす機会になりましたね。
木下さんはアジャイルですね。私はやっぱり「中庸」でした。

そのときに思いました。この本に関して自分のブログに何かを書くときは、タグを「中庸」にしようと。

私は岡島さんから「中庸」という言葉の本当の意味を教わりました。

Mr.永和システムマネジメント

「Mr.永和システムマネジメント」をひとり選ぶとすれば、私は岡島さんを選ぶと思います。生え抜きの永和社員であり、マネージャというポジションでありながら現場の開発者のハートも持っている。そして、毎週、福井と東京を往復されていることもあり、どちらの血も併せ持っている、そんな印象を受けるからです。その証拠に、この本で使われている2つの写真のうち、「勉強会の様子」は東京であり、「朝会の様子」は福井です*1。このバランスの良さが物語っていると思います。今の永和の中でこういうことができるのは岡島さんだけです。「中庸」なリーダーである岡島さんだからこそできることなのかもしれません。

私が岡島さんと初めてお話しさせていただいたのは、オブジェクト倶楽部 2006 夏イベントでのことでした。私はお会いする前に岡島さんの1冊目の本『』を読んでいたのですが、本を読んで受けた印象通りの方でした。岡島さんと私とは同じ大学の出身でもある (岡島さんが4年上で学部も違うので大学での直接の接点はないのですが) ので、最初は大学のことを話題にしたような気がします。そのときに、岡島さんは「大学時代の彼女が工学部にいた」とかいうような話を出会って数分もしないうちに気さくにしてくださり、そういうところがまた岡島さんの魅力なのだなと思いました。

その後すぐ、私は永和システムマネジメントに入社しました。入社後、私が最初に携わったプロジェクトのマネージャが岡島さんでした。そのときは、私が入社後ほどんど間もないにも関わらず信頼して仕事を任せてくださっているのだなという感じを受けました。あとで聞いたところによると、私の議事録を見て、「これはいける」と思ったそうで、議事録を見て判断できるセンスがすごいなと思いました。

死線をくぐり抜けてきた現場開発者

岡島さんを近くで見ていると「この人、死線をくぐり抜けてきたな」と、そんな感じがするときがあります。最初はその正体が何なのか分かりませんでした。後になって、岡島さんから『』に出てくるプロジェクト (土曜日に出社して社長にプロジェクトから降りたいという意志を伝えたというプロジェクトであり、平鍋さんが思い出深いプロジェクトと書いているプロジェクト) の話を聞かせてもらったときに、その正体が分かったような気がしました。

私も岡島さんほどではないにしろ、死線をくぐり抜けてきたといえる経験があります。もしかすると、岡島さんには私の議事録から、そういったものを感じ取っていただけたのかも知れません。

普段の岡島さんの発言や行動、さらに実際に岡島さんが書いた見積書を見せていただいたこともありますが、そういったものから「死線をくぐり抜けてきた」とういう感じがひしひしと伝わってくるのです。今回の岡島さんの本を読んでいても、同じものが伝わってきました。ひとつひとつの言葉の後ろに岡島さんの経験があり、その文体の力強さと繊細さの間に、プロジェクトをともにしてきたメンバーやお客さまの顔が見え隠れしています。

受託開発を「生業」とするすべての人へ

私は受託開発を仕事にするようになって11年目になります。最近になってようやく受託開発が「生業」であると思えるようになりました。

この本はトビラにもあるように、"受託開発を「生業」とするすべての人へ" 向けて書かれた本です。

と書いてみたものの、本当にそうでしょうか?

誰に向けて書かれた本なのか?この本は誰に向けて書かれたものでもないと思うのです。この本は岡島さんが自分自身と真っ正面から向き合って、自分自身のことについて書いた本です。誰かに向かって、「ああしろ」とか「こうやった方がいい」とか言っているのではなく、自分 (自分たち) はこうしてきたと自分自身をふりかえって自分自身に向かって言っているのです。岡島さん自身も「自分の中身を見つめ直す」とか「自分の中身をほじくり返す」とか仰っています。自分自身のことを書くというのはまさに身を削るような作業であっただろうというのは想像に難くありません。

だからといって、自己満足に終わるのではなく、その経験が昇華されて "受託開発を「生業」とするすべての人へ" 届く内容になっていると思うのです。すごく個人的な経験を綴っているのに、それが多くの人の共感を呼んだり普遍的に受け入れられるということはあると思うのです。

少なくとも私はこの本を読んだときに、岡島さんが私に向けて書き下ろしてくれたのかと思ってしまいました (そんな訳はないんですけどね)。

2つの現場

『』のサブタイトルは「変化はあなたからはじまる。現場から学ぶ実践手法」です。そして、『』のサブタイトルは「達人プログラマに学ぶ現場開発者の習慣」です。両書に共通するのは「現場」という言葉です。

岡島さんはあとがきに "「お客さま」と「現場」にこだわる" と書いています。私も「現場」にこだわっています。(『』のサブタイトルについてはこちらをご覧ください。)

岡島さんをはじめ "受託開発を「生業」とする" 人たちと同じ「現場」で仕事ができる。そのことに感謝していきたいと思っています。

Tags: 中庸

*1 「リポジトリ絵巻物」は東京です。